📌 臨床での症状と診断の難しさ
腸が他の骨盤内臓器と癒着しても、軽度の場合はまったく症状が現れないこともあります。
しかし、癒着の範囲が広がると腸の蠕動運動が妨げられ、膨満感、便秘、ひどい場合には腸閉塞を引き起こすことがあります。
このような細かい癒着は、一般的な超音波検査やCTスキャンでは明確に捉えることができないため、医師は手術後の腹痛や消化器症状から推測したり、再手術中に初めて確認されるケースも少なくありません。
📌 癒着をどうやって防ぐの?
術後の癒着を予防するには、手術中にしっかり止血を行うことに加え、丁寧な縫合、腹腔内の血液や組織液を完全に洗浄することが大切です。
最近では、多くの婦人科手術で癒着防止対策が標準化されており、子宮や卵巣などの手術部位と周囲の組織の間に吸収性のバリア材を挿入することで、癒着の発生を大幅に減少させることができます。
📌 癒着防止材の種類(3タイプ)
現在市販されている癒着防止医材は、主に以下の3タイプに分類されます:
1️⃣ ヒアルロン酸・コラーゲンバリアフィルム
(Hyaluronic Acid–Collagen Barrier Film)
天然のヒアルロン酸とコラーゲンで構成された薄膜タイプ
術中に子宮や腸管の表面に貼り付ける
腹腔内の液体と反応して軽く膨らみ、傷口と周囲の組織をしっかり覆う
約2週間で体内酵素により分解・吸収されるため、異物反応の心配が少ない
2️⃣ 水溶性ジェル状隔離材
(カルボキシメチルセルロース溶液/Carboxymethylcellulose Solution)
手術終了時に腹腔内に注入する液体タイプ
子宮・腸・卵巣などの臓器同士を、癒着が起きやすい治癒期に一時的に分離
膜状素材と違い、敷設の正確さが求められず、使いやすい
約1週間以内に体内で自然に排出される
3️⃣ フィブリンシーラント(フィブリン接着剤)
(Fibrin Sealant)
止血と癒着防止の二重効果を持つジェル状バリア
血漿に含まれるフィブリン成分を模した天然素材
術中に切開部に塗布することで、素早く止血しつつ薄いバリア膜を形成
組織修復を妨げず、癒着だけを防ぐバランスの取れた医材
📌 術前の相談と術後のフォローが重要
手術前には、どの癒着防止材を使用するのか、なぜそれが必要なのかを主治医としっかり相談しておくと安心です。
手術後に断続的な腹痛、腹部の張り、便秘などの症状が出た場合は、早めに診察を受けることが大切です。
癒着が軽度のうちに発見できれば、保存的治療だけで改善し、再手術のリスクを減らすことができます。
癒着対策を術式の一部として定着させることは、術後の生活の質を向上させるカギになります。

