Atosibanは、オキシトシンおよびバソプレシンV1a受容体の拮抗薬で、元々は早産を遅らせるために使用されていた薬です。近年では、生殖補助医療の分野でも応用され始めています。研究によると、体外受精(IVF)を受ける患者のおよそ30%が胚移植中に子宮収縮の増加を経験し、この頻繁な子宮収縮が胚の着床を妨げる可能性があります。
Atosibanは、子宮筋層の緊張と収縮頻度を抑制することで、子宮内の環境を安定させ、子宮内膜の受容性を高める働きがあります。その結果、胚の着床率および臨床妊娠率の向上が期待されます。
近年の重要な3つの文献を基にしたシステマティックレビューと統合解析によれば、アトシバンは特に反復着床不成功(Repeated Embryo Implantation Failure: RIF)の患者において、臨床妊娠率の改善に有望な効果を示しています。
まず、Ruxin Wangら(2023年)のRIF患者を対象としたシステマティックレビューでは、アトシバンの使用によって臨床妊娠率が有意に上昇(OR = 2.22, 95% 信頼区間CI: 1.36–3.63, p < 0.01)し、着床率にも向上の傾向が見られました。これは、Atosibanが子宮内の環境を安定させ、異常な収縮を軽減する効果をもつことを示しています。
さらに、Juan Enrique Schwarzeらによる無作為化試験と非無作為化試験を統合した解析でも、Atosibanは胚移植全体の成績を改善し、無作為化対照試験では臨床妊娠率が有意に向上しました(OR = 1.47, 95% CI: 1.18-1.82)。
一方、Cochraneのシステマティックレビュー(Craciunasら, 2021年)では、アトシバンの使用が生児出産率や流産率に与える影響については明確な結論が出ていません。分析によれば、生児出産率はアトシバン群で33〜47%、対照群で38%と大きな差は見られず、流産率は7%から5〜11%に減少する傾向はあるものの統計的有意差はありませんでした。
また、子宮内膜の受容性も胚の着床成功に影響します。子宮腺筋症を伴わない子宮内膜症の患者では、Atosibanの使用によって着床率および臨床妊娠率の向上が期待できます。
まとめると:
Atosibanは、反復着床不成功(RIF)患者に対して明確なプラス効果があり、臨床妊娠率および着床成功率を向上させる可能性があります。一方で、RIFと診断されていない一般患者に対しては、現時点では十分なエビデンスがなく、その効果は子宮収縮の程度や個人の体質によって異なる可能性があります。
そのため、臨床での使用は高リスク群に対して個別に評価した上での使用が推奨されます。
具体的には、胚移植の際に時間がかかったり、明らかな子宮収縮が見られる場合、反復着床失敗がある場合、子宮内膜症がある場合などに、Atosibanの使用を検討できます。ただし、通常の患者へのルーチン使用は推奨されません。
胚移植に対して不安や緊張がある方は、事前に専門医と相談し、Atosibanの適応があるかどうかを判断することをお勧めします。
參考資料:
Juan Enrique Schwarze, Javier Crosby, Antonio Mackenna. Atosiban improves the outcome of embryo transfer. A systematic review and meta-analysis of randomized and non-randomized trials. JBRA Assisted Reproduction 2020;00(0):00-00
doi: 10.5935/1518-0557.20200016
Ruxin Wang , Haixia Huang , Yong Tan ,Guicheng Xia. Efficacy of atosiban for repeated embryo implantation failure: A systematic review and meta-analysis. Front Endocrinol (Lausanne). 2023 Mar 23;14:1161707. doi: 10.3389/fendo.2023.1161707
Laurentiu Craciunas, Nikolaos Tsampras, Martina Kollmann, Nick Raine-Fenning, Meenakshi Choudhary. Oxytocin antagonists for assisted reproduction. Cochrane Database Syst Rev. 2021 Sep 1;2021(9):CD012375. doi: 10.1002/14651858.CD012375.pub2
Ye He, Huan Wu, Xiaojin He, Qiong Xing, Ping Zhou, Yunxia Cao, Zhaolian Wei. Administration of atosiban in patients with endometriosis undergoing frozen–thawed embryo transfer: a prospective, randomized study. Fertility and Sterility. Volume 106, Issue 2 p416-422 August 2016